福生通信

自転車であちこちに行った備忘録

玉川上水

彼女は会社に来るレンタル業者だった。
去年の秋頃だっただろうか、何がきっかけってわけでもないが挨拶を交わしているうちに少し雑談をするようになった。
23歳で京都出身。時折京都弁が混ざるのが魅力的な明るい子だった。
ある真冬の日、彼女が駐車場車で荷物を積んでいた。
自販機でペットボトルの暖かいお茶を2本買う。
サボろうよと誘い、歩いて1分くらいのところにある玉川上水の辺でおしゃべりをしながらお茶を飲んだ。
それから彼女が来るたびに会社を抜け出して玉川上水でサボるようになった。
といっても彼女が来るのは隔週。打ち合わせや外出などで会えない時もあるので2週間か1ヶ月に1度の事である。
2月の最後の週。彼女が来る日だったが仕事が立て込んでいた。そろそろ来ている時間なので玄関に覗きに行くと彼女はいた。
名刺に携帯メールアドレスを書いて、今日は忙しくてサボれないからメールをくれないかと伝える。
そして最初に来たメール。
「4月から別の事業部に移ります。あと2回しかレンタル行けないので、また顔出してくださいね!!」
 
先日会った。残り2回のうちの1回。
玉川上水は少しだけ新緑が芽吹いていた。あいかわらずたわいのない雑談をしただけだった。
彼女は何か意味ありげな名前だったので、なぜ付けられたのかその理由を聞いてみたり、自分のメールアドレスの意味とか、好きな歌手とか。
 
最後に彼女が来るのは来週の木曜日である。
最後らしいシチュエーションとか考えてみたりするが、結局そんな作戦が上手く行った試しがないことは今までの人生で経験済みである。
仕事で会えないままさようならだったりして。
つづく。